RAIS情報戦研究グループ グループ長 田代光輝
客員研究員 中島有希大
【要旨】
選挙SNSの「操作」をめぐる議論は印象論に流れやすい。本稿は、2026年新潟県知事選挙のSNS投稿(約1.98万アカウント・約4.98万投稿)を対象に、協調的な投稿の兆候を主観ではなく統計的な手続きで検出する方法を報告する。選挙集中度、時間帯プロファイル、投稿間隔、返信ネットワーク、投開票前後の投稿量変化という五つの軸で、母集団および一般ユーザーの対照群と比較した。その結果、全体については、本稿の観測軸の範囲で組織的動員を示す指標は検出されなかった。
その一方で、抽出した7アカウントでは、投稿数における新潟県知事選挙関連の割合(選挙集中度)が16.3〜79.7%と、選挙に特化した内容であった。同じ定義で算出した一般ユーザーの対照群6アカウントの選挙集中度は0.6〜3.6%(6アカウントを合算すると2.2%)であり、大きな差がみられる。
はじめに: 「不自然」な投稿をどう判断するか
選挙のたびに「SNSが操作されている」という言説が現れる。しかし、ある投稿群を「不自然だ」と感じることと、それが統計的に逸脱していると示すこととの間には大きな隔たりがある。基準を欠いたまま個々の投稿の印象を重ねれば、目立つ言論はすべて工作に見え、逆にいかなる協調も「偶然」と片付けられてしまう。
本研究の目的は、この距離を埋めることである。すなわち、①選挙SNSの全体に組織的動員を示す指標が認められるか、②その中に統計的に際立つ小集団が存在するか、③ 存在するなら、その活動に単純な自動化の指標が認められるか、を反証可能な統計手続きで検討する枠組みを提示する。なお、本枠組みは、観測された投稿の外形的な特徴を扱うものであり、活動主体の意図、組織性、国内外の帰属を判定するものではない。
データと分析手法: 新潟県知事選挙を事例に
2.1. データ
NationXのデータ収集ツールを用い、新潟県知事選挙に関するSNS投稿をキーワード検索により収集した。収集の実行期間は2026年5月11日から6月20日、告示日は5月14日、投開票日は5月31日である。収集したデータを精査し、分析対象としたのは重複排除後で約1.98万アカウント・約4.98万投稿である。これに加えて、防衛費・他の選挙・災害等を含む75キーワードを横断収集した比較データセット(約21.7万投稿・約8.7万アカウント)を用いた。さらに、後述する抽出群7アカウントと対照群6アカウントについては、監視キーワードによらない全投稿(タイムライン)を別途取得した。取得範囲は2026年5月1日から6月9日、重複排除後で抽出群5,591投稿、対照群3,703投稿である。
図ごとの描画の対象期間は一致しない。図1は2026年5月11日から6月5日、図2および図3は収集した投稿の全体、図5および図6は抽出群の収集範囲全体、図4および図7は全投稿を取得した2026年5月1日から6月9日である。各図の対象期間は図の注記にも記載した。
2.2. 分析対象と抽出手続き
本稿の分析は二段階からなる。第一段階では、収集した約1.98万アカウント全体を母集団として、投稿量の推移と語の共起構造を記述した。第二段階では、新潟県知事選挙のデータ内での行動指標(返信率、候補陣営への集中的な返信、特定ハッシュタグの多用、投開票前後の投稿量の変化)による一次選抜を経た7アカウントを詳細分析の対象とした(以下「抽出群」と呼ぶ)。抽出群の7アカウントはいずれも、抽出の時点では、比較データセット(75キーワード)で捕捉された投稿に占める新潟関連投稿の割合が95%以上であった。ただしこの割合は監視キーワードに合致した投稿のみを分母とするものであり、本稿ではこれを抽出時の指標として用いるにとどめ、結果として報告する選挙集中度は各アカウントの全投稿を分母として別途算出した。なお、同データセット上には同じ基準を満たすアカウントが他にも存在するため、この指標は抽出の必要条件であって十分条件ではない。抽出群は特定の候補や陣営を基準に選んだものではない。また、抽出の基準に選挙関連の話題への集中を含むため、抽出群が選挙関連の話題に集中していることは抽出条件の帰結であり、分析の所見ではない。
2.3. 観測軸と比較の基準
観測は次の五つの軸で行った。① 選挙集中度、② 時間帯プロファイル、③ 投稿間隔分布、④ 返信率と返信ネットワーク、⑤ 投開票前後の投稿量変化。比較の基準としては、(a) 新潟関連の投稿を行った約1.98万アカウントからなる母集団と、(b) 一般ユーザー6アカウント(以下「対照群」)の2種を併用した。対照群は、新潟関連の投稿があり、比較データセット内の選挙集中度が60%未満で多トピックにわたり、返信率が今回の収集群の一般的な範囲(5〜40%)にあり、投稿量が極端でなく、自動投稿・著名人・報道機関・政治家のいずれにも該当しないアカウントから選んだ。個別のアカウント名は匿名化し、本稿では対照1から対照6と表記する。
選挙集中度は、抽出群と対照群のいずれについても、各アカウントの全投稿を分母として算出した。2026年5月1日から6月9日のタイムラインを別途取得しているため、監視キーワードに合致しない日常的な投稿も分母に含まれる。分子は、新潟県知事選挙の収集に用いた検索語(新潟、花角、はなずみ、土田、安中聡、柏崎刈羽、知事選、県知事、原発再稼働)のいずれかを本文に含む投稿である。分母・分子の定義は両群で同一である。ただし判定は検索語の文字列一致によるため、同名の別人・別地名を含み得る点は留意を要する。
2.4. 統計処理
軸ごとに用いた手法は次のとおりである。選挙集中度と返信率は割合の比較であるため、Fisher正確検定を用いた。これは、二つの群で割合が同じだと仮定したときに、観測された差以上の偏りが偶然に生じる確率を直接計算する方法である。選挙集中度については、各アカウントの新潟関連投稿数と全投稿数を、対照群6アカウントを合算した値と対比する2×2表で検定した。多数のアカウントを同時に検定すると偶然の「当たり」が増えるため、Benjamini–Hochberg法により偽発見率を0.05に制御した。これは、有意と判定したもののうち誤りが占める割合を一定以下に抑える補正である。割合の推定値には、ベータ二項分布に基づく95%信用区間を併記した。これは、観測された割合がどの程度の幅で揺れ得るかの目安である。投稿間隔は、対数正規分布と正規分布の当てはめを赤池情報量規準(AIC)で比較した。AICは、二つの分布のどちらがデータをよく説明するかを比べる指標である。時間帯プロファイルは百分率に換算して分布の形状を比較し、投開票前後の投稿量は全投稿の日平均で比較した。なお、本稿の検定は、観測された投稿の外形的な特徴が基準群と異なるかどうかを示すものであり、その差異の原因を特定するものではない。個別のアカウント名は、当該選挙の候補者および報道機関・政党の公式アカウントを除き、すべて匿名化した。
分析結果: 関連する語句、選挙投稿の集中度、相互の返信
3.1. 全体像:投稿量の推移と担い手
SNSの投稿量は、選挙戦のイベントに連動し、終盤にピークを打ち投票日に収束した(図1)。担い手の中心は新規の匿名アカウントではなく、既存の一般ユーザーと認証済みのメディア・政治家であった。10分以内に同一文面を投じる3アカウント以上の同期クラスタは全体で0件であり、単純な自動投稿を示す指標は検出されなかった。

図1 新潟関連の日次投稿量(面)と候補別言及(線)。対象期間は2026年5月11日から6月5日。青緑が土田への言及、濃紺が花角への言及を示す。破線は告示日(5月14日)と投開票日(5月31日)を示す。
3.2. 新潟県知事選挙でのSNS上での議論
3.2.1. 共起語
「新潟県知事選挙」の共起語を名詞で抽出すると、原子力発電所に関連する語が上位を占めた(図2)。原子力発電所の再稼働について、地震の影響を懸念する投稿が見られた。

図2 SNS上の「新潟県知事選挙」の共起語(上位60語)。対象は収集した投稿の全体。
3.2.2. 陣営別の共起語
「花角」「土田」と共に投稿された語を、出現頻度の割合で左右(左が花角、右が土田)に分けたものが図3である。両候補ともに原子力発電所に関わる語が現れる一方、花角側では「安全」「老朽」、土田側では「地震」「憲法」など、陣営ごとに特徴的な語が確認できた。

図3 新潟県知事選挙における「花角」「土田」との共起語の頻出度。横軸は候補者近接性で、左に寄るほど花角、右に寄るほど土田との共起が優勢であることを示す。対象は収集した投稿の全体。
3.3. 特徴的なアカウントの検証
今回収集したデータからは、全体平均から著しく外れる、追加検証を要する特徴的な7つのアカウントが検出された。この抽出群7アカウントについて、選挙集中度、投稿間隔、返信ネットワーク、投開票前後の投稿量を順に確認する。
3.3.1. 選挙集中度:抽出群と対照群の比較
各アカウントの全投稿に占める新潟県知事選挙関連投稿の割合(選挙集中度)は、抽出群7アカウントが16.3%から79.7%、対照群6アカウントが0.6%から3.6%であった(図4)。対照群6アカウントを合算した値は2.2%である。抽出群の7アカウントはいずれも、対照群を合算した値に統計的に有意な差があった。(Fisher正確検定、Benjamini–Hochberg補正後のq<0.001)。両群とも監視キーワードに合致しない投稿を含む全投稿を分母としており、同一条件での比較である。

図4 選挙集中度。各アカウントの全投稿に占める新潟県知事選挙関連投稿の割合。濃紺は抽出群7アカウント(16.3〜79.7%)、青は対照群6アカウント(0.6〜3.6%)、青緑の破線は対照群6アカウントを合算した2.2%。対象期間は2026年5月1日から6月9日。両群とも監視キーワードによらない全投稿を分母としている。
3.3.2. 抽出群の投稿間隔
単純な自動投稿であれば、投稿間隔は特定の値に単一のピークを示すことが多い。抽出群で観測されたのは、短間隔(日中の連続投稿)と長間隔(夜間から翌朝への空白)からなる二峰の分布であり、等間隔の投稿は検出されなかった(図5)。投稿間隔は7アカウントすべてで対数正規分布が支持され(ΔAIC>0)、自動投稿の特徴である正規分布(一定の間隔での投稿)より適合度が高かった。ただし二峰の分布は、単純な自動投稿では説明しにくいことを示すにとどまり、それ自体が人手による投稿であることを示すものではない。

図5 抽出群7アカウントの投稿間隔分布(横軸は対数、1分から2日超)。青緑は短間隔、灰は中間、青は長間隔。いずれのアカウントも二峰の形状を示し、特定の間隔への単一のピークは見られない。
3.3.3. 返信ネットワーク:群内の相互返信と共通の返信先
抽出群7アカウントのうち6アカウントは、相互に返信し合う関係を持つ(図6)。ただし返信先は一様ではない。このうち5アカウント(抽出A・B・C・E・F)は候補陣営(土田)へ集中的に返信する一方、抽出Dは候補(花角)および政治家アカウントへの返信が中心である。残る1アカウント(抽出G)には、抽出群内および候補陣営との返信関係は確認されなかった。複数のアカウントが同一文面を配布する近似重複(語句がわずかに違うだけで実質的に同じ文面を、別のアカウントが投稿すること)は0件であり、同一文面の同期は検出されなかった。

図6 返信ネットワーク。濃紺は抽出群、青緑は候補陣営および政治家、灰は一般アカウント(共通の返信先)。抽出群のうち6アカウントが相互に返信し、そのうち5アカウントは土田陣営へ集中的に返信している。抽出Dは花角側および政治家アカウントに返信している。同一文面の配布は検出されなかった。候補者を除く個別のアカウント名は匿名化した。
3.3.4. 投開票前後の投稿量の変化
抽出群の1日あたりの投稿数は、投開票日を境に3.6%から85.6%減少した(図7)。ただし、その減少幅はアカウントごとに大きく異なっていた。抽出Aは18.0件から2.6件へ大きく減少した一方、抽出Dは18.5件から17.8件へとほとんど変化していなかった。観測期間内に投稿がほぼ見られなくなったのは、抽出A(最終投稿は6月2日)と抽出E(6月6日以降はほぼ投稿なし)の2アカウントであり、残る5アカウントは投開票後も投稿を継続していた。
一方、対照群6アカウントの投稿数の変化率は−26.4%から+22.3%の範囲であった。以上のことから、抽出群では投開票後に投稿数が減少する傾向がみられたものの、その程度には大きなばらつきがあり、投開票を境に抽出群全体が一律に活動を停止・離脱したとはいえない。なお、本分析では投開票後のアカウントの状態(継続・停止・削除等)を確認していないため、投稿数が減少した理由については特定できない。

図7 投開票前後の1日あたり投稿数(全投稿の日平均)。棒は日平均の投稿数で、濃紺が投開票前(5月1日から5月30日)、斜線の青緑が投開票後(5月31日から6月9日)。橙の折れ線は投稿数の変化率で、右の軸で読む。灰の破線は変化なし(0%)の位置を示す。監視キーワードによらない全投稿を対象としている。
考察: 際立つ小集団が存在
結果は二層の構造を示す。全体については、本稿の観測軸の範囲で組織的動員を示す指標が検出されなかった一方、その内部に、話題の分布において際立つ小集団が存在した。ここで重要なのは、この際立ちがただちに機械的な操作を意味するわけではないという点である。投稿間隔が二峰であること、同一文面の配布が確認されないことは、いずれも単純な自動投稿や同一文面の同期が確認されなかったことを示している。また、抽出群が選挙関連の話題に集中していること自体は、選挙関連の話題への集中を基準に抽出した手続きから導かれる結果であり、新たな発見として扱うことはできない。投開票後の投稿量については、全投稿を対象に測ると減少幅がアカウントごとに大きく異なり、一律の離脱は観測されなかった。活動主体の意図、組織性、国内外の帰属については、本分析からは判定できない。
本分析の限界を明記しておく。第一に、新潟関連かどうかの判定は検索語の文字列一致によるため、同名の別人・別地名を含み得る。第二に、全投稿を取得した範囲は2026年5月1日から6月9日であり、この期間の外側の行動は本稿の対象外である。第三に、図ごとに描画の対象期間が異なる。第四に、投開票後のアカウントの状態を確認していないため、投稿量の変化の意味は特定できない。第五に、「誰が、なぜ」という帰属の問いには本分析だけでは答えられない。答えられる範囲を厳密に区切ることが、情報戦分析の誠実さだと考える。
結論: 特定の事例を超えた適応可能性
2026年新潟県知事選挙のSNS空間については、全体としては本稿の観測軸の範囲で組織的動員を示す指標が検出されず、その中に、全投稿に占める選挙関連の話題の割合が際立って高いアカウント群が存在した、と要約される。この7アカウントは選挙関連の話題への集中を抽出条件に含むため、集中それ自体は抽出条件の帰結である。抽出後に確認した投稿間隔、返信ネットワーク、投開票前後の投稿量については、単純な自動投稿や同一文面の同期は確認されず、投開票後の一律の離脱も観測されなかった。活動主体の意図、組織性、国内外の帰属は判定できない。本手法の価値は特定の結論よりもその反証可能性にあり、別のデータ、別の選挙でも同じ手続きを適用できる。
執筆者
新領域戦略研究客員所 上席研究員(情報戦研究グループ・グループ長)
田代 光輝
慶應義塾大学環境情報学部卒業。青山学院大学大学院社会情報研究科博士後期課程修了(博士(学術))。専門は情報社会学。
新領域戦略研究所 客員研究員
中島 有希大
政治・社会現象を対象に、統計学・データサイエンスに基づく実証研究を行っている。自然言語処理、ネットワーク分析、グラフニューラルネットワークなどを主に利用し、情報戦・認知戦をめぐる諸現象の分析を行う。また、選挙区割りや投票価値の不均衡を含む選挙制度上の問題にも取り組む。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。現在、同研究科特任助教を務めるほか、横浜国立大学および横浜市立大学で非常勤講師を務める。
RAIS情報戦研究グループ 月次レポートについて
国際文化会館新領域戦略研究所(RAIS)では、AIと安全保障研究グループ、技術・資源・人材研究グループ、情報戦研究グループの3グループにて、先端技術と安全保障領域に関わる文理融合の調査・研究を進めています。
その中で、我々情報戦研究グループでは、情報空間の一つであるインターネットの交流サービスであるSNS(Social Networking Service)に注目し、株式会社NationXの技術協力の下、SNSにおける認知・情報戦の分析を進めています。2026年5月から6月にかけては、5月31日投開票の新潟県知事選挙に注目し、分析を進めてきました。新潟県知事選挙においては、現職知事の実績についての評価を中心に、原子力発電所の再稼働問題、地震などの災害に向けた広域対策、憲法問題など、多くの話題が議論されました。今回の分析では、単純な自動投稿や同一文面の同期は確認されませんでした。ただし本分析は、活動主体の意図、組織性、国内外の帰属までを判定するものではありません。
まずは、月次レポートの第一弾として、本稿をリリースいたしました。今後も、様々な注目イベントが続きますので、月次・週次にてSNS分析レポートを公表していく予定です。
分析・データ基盤:NationX(収集・特徴量設計・統計解析)/監修・政策的含意:RAIS。図はすべて本分析データに基づく。個別のアカウント名は、当該選挙の候補者および報道機関・政党の公式アカウントを除き、すべて匿名化した。サムネイル画像出典:Shutterstock。









