2026年5月14日、国際文化会館は、新たに設立した新領域戦略研究所(Research Institute for Advanced Innovation and GeoStrategy、RAIS)の設立記念シンポジウム「AI and Future Warfare」を、東京都内で開催しました。
本シンポジウムでは、神保謙・RAIS共同代表 兼 国際文化会館常務理事(代表理事)による冒頭挨拶の後、ご来賓として本シンポジウムにご臨席いただいた小泉進次郎防衛大臣よりRAIS設立及び本シンポジウム開催に対するお祝いのお言葉を頂戴しました。その後、古谷知之・RAIS共同代表より研究所の設立趣旨及び活動内容を紹介するとともに、AIや防衛・安全保障の最前線で活躍する海外の実務家らを交えたパネルディスカッションを行いました。
第1セッション:AI in Modern/Future Battlefield
第1セッションでは、OpenAI CSO ジェイソン・クォン氏、Anthropic グローバル・アフェアーズ責任者 マイケル・セリト氏、EdgeCortix 副社長(防衛・宇宙技術担当)スタンリー・クロウ氏を迎え、「現代/未来の戦場におけるAI」をテーマに議論を行いました。AIがもはや単なる業務効率化ツールではなく、国家安全保障の戦略的インフラになりつつあるとの認識が共有されました。
議論では、AIの特徴として、民間・軍事の双方に利用可能なデュアルユース性、自律的に複雑なタスクを遂行する能力、そしてサイバー、情報分析、兵站、指揮統制、ターゲティング支援、自律システムなどへの広範な応用可能性が指摘されました。
特に、AIの軍事利用を考える際には、自律兵器だけに焦点を当てるのではなく、より広い視点から捉える必要があることが強調されました。AIは、膨大なデータの中から重要な兆候を抽出し、指揮官の状況認識を高めることができます。また、兵站、資源配分、作戦計画、組織運営の効率化にも大きな可能性があります。こうした領域では、AIは単に作業を代替するだけでなく、意思決定の質を高め、防衛組織全体の能力向上に資するものとして位置づけられます。
一方で、AIの軍事利用には重大な倫理的・制度的課題が伴うことも確認されました。機械への過度な依存、説明可能性の不足、データバイアス、自動化バイアス、偶発的エスカレーション、責任の所在などが、主要な論点として挙げられました。
とりわけ、高リスクの軍事判断においては、人間による意味ある統制と責任の確保が不可欠です。AIを導入する際には、単に「人間をループに入れる」だけでは十分ではありません。人間がAIの限界と不確実性を理解し、適切な判断を下せるよう、訓練、ドクトリン、監査可能性を整備する必要があります。
また、AI時代の戦場は、前線の戦闘空間だけではなく、社会全体のインフラ、製造基盤、データ基盤、サプライチェーン、同盟国の支援能力を含む広い空間へと拡張しているとの指摘もありました。AIを実際の防衛能力に転換するためには、モデルやソフトウェアだけでなく、半導体、エッジコンピューティング、通信、クラウド、レジリエンスを含む基盤整備が不可欠です。
第2セッション:Innovation Ecosystem for National Security
第2セッションでは、Defense Innovation Unit 前所長 ダグ・ベック氏、アンドゥリル・ジャパン代表(副社長)パトリック・ホーレン氏、Microsoft アジア地域 防衛・国家安全保障責任者 ブレイク・ハーツィンガー氏を迎え、「現代/未来の戦場におけるAI」および「国家安全保障のためのイノベーション・エコシステム」をテーマに、活発な議論が交わされました。第1セッションで確認された「戦争がソフトウェア定義型になり、AI、自律システム、データ優越が中核になっている」という認識を受け、日本がどのような制度・産業・同盟基盤で対応すべきかについて議論しました。
中心的な論点は、商用技術をいかに防衛上の課題解決に結びつけ、試作にとどまらず、実装、量産、運用、スケールへとつなげるかでした。
討議では、現代の防衛力整備において、純粋な防衛産業だけでは技術革新の速度と規模に対応しきれないとの認識が示されました。世界中の消費者や企業の需要に応える商用技術セクターの革新速度は極めて速く、防衛分野はこの力を取り込む必要があります。そのためには、防衛部門と商用技術部門の間に橋を架け、現場の作戦上の課題を出発点として、スタートアップから大企業までが解決策を提案できる仕組みを整えることが重要です。
特に、日本にとっての課題として、迅速な取得、柔軟な予算、現場運用者との接続、実装を担う自衛隊の初期段階からの関与、そしてスケールアップを可能にする制度設計が挙げられました。詳細な要件仕様書から始める従来型の調達では、技術変化の速いAI・ソフトウェア分野に対応しにくくなります。解くべき問題を明確に示し、企業側の創意工夫を引き出し、短期間で実証・評価・導入につなげるプロセスが必要です。
製造基盤については、高性能だが高価で製造に時間を要する装備だけに依存することの限界が議論されました。現代戦では、無人機、ミサイル、弾薬、センサーなどの大量消耗が想定されるため、安価で大量に整備可能な能力、すなわち「Affordable Mass」が重要となります。
そのためには、従来の防衛産業に閉じるのではなく、商用製造基盤、異分野の企業、スタートアップ、素材・部品メーカーを広く巻き込み、防衛システムを量産可能な形で設計する必要があります。
また、日本の産業基盤には大きな潜在力がある一方、部品・サプライチェーンの対外依存、特に重要部品の供給途絶リスクへの対応が必要であるとの指摘がありました。ドローンや自律システムの分野では、国産部品、標準化、サプライチェーンの可視化といった、経済安全保障上のレジリエンスが重要な課題となります。
防衛産業を一部の既存企業に限定するのではなく、ゲーム、通信、複合材料、クラウド、AI、半導体、データエンジニアリングなど、多様な産業を安全保障イノベーションに接続することが求められます。
クラウドとデータ基盤については、将来の防衛能力を支える「デジタル上の戦略的基盤」としての重要性が確認されました。ドローン群の統制、長距離精密打撃、統合防空ミサイル防衛、海中戦、情報共有、サイバー防御はいずれも、高度なデータ処理、AI、クラウド、ネットワーク基盤に依存します。
データ基盤のレジリエンスを確保するためには、国内での主権的な管理と、同盟国やグローバルなクラウド基盤との連携を組み合わせることが重要です。これは、日本単独の課題ではなく、日米同盟全体のアーキテクチャに関わる課題でもあります。
人材面では、軍事とテクノロジーの双方を理解する「橋渡し人材」の重要性が強調されました。AI時代の防衛イノベーションには、制服組、防衛官僚、技術者、データサイエンティスト、スタートアップ、既存企業、政策研究者をつなぐ人材が不可欠です。技術を理解するだけでなく、作戦上の課題、制度、調達、産業、同盟協力を横断的に理解できる人材を育成することが、日本の防衛イノベーション・エコシステムの基盤となります。
シンポジウムの総括
本シンポジウムを通じて、AI時代の安全保障において日本が直面する課題は、単なる技術導入にとどまらないことが明らかになりました。重要なのは、AIや自律システムを、戦略、制度、産業、同盟、倫理、人材、データ基盤と一体的に設計することです。
技術革新の速度に対応するためには、従来型の防衛調達や産業構造を見直し、商用技術と防衛ニーズを結びつける新たな制度と文化が必要です。また、AIを安全保障に活用する際には、効率性や速度だけでなく、人間による統制、説明責任、民主的正統性をどのように確保するかが重要な課題となります。
RAISは、こうした複合的課題に取り組むために設立されました。今回のシンポジウムは、RAISが今後、先端技術と安全保障戦略を接続し、官民・産学・同盟国間の対話を促進し、日本発の安全保障イノベーションに関する知的基盤を形成していくための出発点となりました。
今後、RAISは、AI、先端技術、防衛イノベーション、経済安全保障、国際秩序を横断する研究と対話を進め、日本および国際社会に向けて政策的知見を発信していきます。





