概要
国際文化会館(I-House)は、2026年3月16日から18日にかけて、ニューデリーおよびアーメダバードにおいて「日印対話プログラム2026」を実施した。本プログラムは、これまでインドの有識者を日本に招へいする形で実施されてきたが、今回は初めて日本側専門家をインドに派遣し、双方向交流を推進する新たな段階となった。
今回の日本側専門家として、建築家の妹島和世氏を迎えた。世界的に活躍する建築家である同氏の参加により、日本が国際的に強いプレゼンスを持つ建築分野を通じて、日本とインドの関係深化と、持続可能性、防災、環境設計といった共通課題についての議論を促進することを目的とした。
本プログラムは、Shahani Associates、インディア・インターナショナル・センター(IIC)、CEPT大学との共催、国際交流基金の支援のもと実施された。また、I-Houseアートデザイン部門ディレクターの長谷川祐子氏による特別セッションは、国際交流基金ニューデリー日本文化センターとの共催により開催された。
<2025年度フェロー>
建築家
妹島 和世
茨城県生まれ。1981年日本女子大学修士課程修了。1987年に東京で「妹島和世建築設計事務所」を開設し、1995年に西沢立衛とともにSANAAを設立。個人で手掛け
た作品には、『梅林の家』、『犬島「家プロジェクト」』、『すみだ北斎美術館』、『日本女子大学目白キャンパス』などがある。SANAAとしての代表作は、『金沢21世紀美術館』、『ROLEX ラーニング センター』、『ルーヴル・ランス』、『グレイス・ファームズ』、『ボッコーニ大学新キャンパス』、『サマリテーヌ』、『シドニー・モダン・プロジェクト』など。2010年には、第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の総合ディレクターに就任。日本建築学会賞、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞受賞、ロルフ・ショック賞(ビジュアル・アーツ部門)、プリツカー賞、藝術文化勲章オフィシエ、銀の定規賞、紫綬褒章、トーマス・ジェファーソン・メダル建築部門、高松宮殿下記念世界文化賞、ロイヤル・ゴールド・メダルなど、数多くの受賞・受章歴を誇り、文化功労者にも選出された。現在は、ミラノ工科大学教授を務めるとともに、日本女子大学と大阪芸術大学で客員教授、横浜国立大学で名誉教授、東京都庭園美術館で館長を務める。
講演➀ ニューデリー
日程: 2026年3月17日
会場: インディア・インターナショナル・センター(IIC)
スピーカー: 妹島和世(建築家)
演題: 建築と環境
共催: 国際文化会館、シャハニ・アソシエイツ、IIC
協力: 国際交流基金ニューデリー日本文化センター
講演➁ アーメダバード
日程: 2026年3月18日
会場: CEPT大学
スピーカー: 妹島和世(建築家)
演題: 建築と環境
共催: 国際文化会館、シャハニ・アソシエイツ、CEPT大学
特別セッション
日程: 2026年3月16日
会場: NIVアート・センター
スピーカー: 長谷川祐子 (キュレーター;国際文化会館アート・デザイン部門ディレクター)
演題: 「未来の工芸:伝統とテクノロジーの間の日本アート」
共催: 国際文化会館、シャハニ・アソシエイツ、国際交流基金ニューデリー日本文化センター
詳細はこちらのレポートをご覧ください。
2026年日印プログラム開催報告書2026年日印プログラム開催報告書
講演➀サマリー
3月17日 妹島和世氏講演(India International Centre、ニューデリー)
妹島和世氏は「Architecture & Environment」と題し、約40年にわたる建築実践を振り返る講演を行った。建築家、学生、一般参加者など約150名が参加した。
講演では、初期の住宅作品から始まり、開放性や内外空間の関係性に関する考え方が紹介された。テラスや柔軟なレイアウトを通じ、コミュニティとプライバシーの両立を図る設計手法について妹島氏は説明した。
さらに、氏は美術館や大学などの大規模プロジェクトにおいては、透明性や景観との統合を重視した設計思想について展開し、加えて、気候条件に応じた設計や「中間領域」の重要性についても言及した。
講演➁サマリー
3月18日 妹島和世氏講演(CEPT University、アーメダバード)
CEPT大学において、妹島氏による2回目の講演が実施され、学生や教員、専門家など約800名が参加した。
講演で妹島氏は、人・建築・環境の関係をつなぐ共有空間としての建築の役割を強調した。住宅から文化施設に至るまでの作品を通じて、連続性や透明性、自然光の活用などの設計思想も紹介した。
また、「中間領域」が社会的交流を促進する要素として改めて言及され、建築は人々の活動によって発展する枠組みを提供すべきであるとの妹島氏の考えが示された。続く活発な質疑応答では、参加者が妹島氏と直接意見を交わす貴重な機会となり、非階層的な空間や利用者主体の体験に関する回答を通じて、建築を人々が共有しながら関係性を育み、活動を通じて発展していく環境として捉える同氏の考えが一層印象づけられる形で締めくくられた。
妹島和世氏、Sameep Padora教授、長谷川祐子氏によるディスカッション
多数の参加者が集まった妹島氏講演
特別セッション サマリー
3月16日 長谷川祐子氏特別セッション(ニューデリー)
ニューデリーのNIV Art Centreにおいて、「Crafting the Future: Japanese Art Between Tradition and Technology」と題した長谷川祐子氏による特別講演を開催した。アーティスト、キュレーター、文化関係者など約30~40名が参加した。
講演では、日本の現代アーティストが伝統工芸をどのように再解釈し、技術革新と融合させているかについて紹介があり、デジタルモデリング、レスポンシブ素材、ハイブリッド材料などの事例を通じ、伝統的技法と現代技術の融合も示された。
また、日本の工芸にみられるアニミズム的感性と、自然・精神性・技術を結びつけるインドの芸術との共通点にも言及があった。さらに、AIやデジタル技術による創造領域の拡張の可能性と日印間の文化交流の新たな展望が共有された。
アート・デザイン ディレクター
長谷川 祐子
キュレーター/美術批評。京都大学法学部卒業。東京藝術大学美術研究科修士課程修了。水戸芸術館学芸員、ホイットニー美術館客員キュレーター、世田谷美術館学芸員、金沢21世紀美術館学芸課長及び芸術監督、多摩美術大学芸術学科教授、東京都現代美術館学芸課長及び参事、東京藝術大学国際芸術創造研究科教授を経て、2021年4月から現職。ヴェネツィア大学客員教授(2023年)。犬島「家プロジェクト」アーティスティック・ディレクター。文化庁長官表彰(2020年)、フランス芸術文化勲章シュバリエ(2015年)、ブラジル文化勲章(2017年)、フランス芸術文化勲章オフィシエ(2024年)を受賞。
これまでイスタンブール(2001年)、上海 (2002 年)、サンパウロ (2010 年)、シャルジャ(2013年)、モスクワ(2017年)、タイ(2021年)などでのビエンナーレや、フランスで日本文化を紹介する「ジャパノラマ:日本の現代アートの新しいヴィジョン」、「ジャポニスム 2018:深みへ―日本の美意識を求めて―」展を含む数々の国際展を企画。
国内では東京都現代美術館にて、ダムタイプ、オラファー・エリアソン、ライゾマティクスなどの個展を手がけた他、坂本龍一、野村萬斎、佐藤卓らと「東京アートミーティング」シリーズを共同企画した。
【兼職】東京藝術大学名誉教授 / 総合地球環境学研究所客員教授
長谷川祐子氏、Rajnish Chhanesh氏(現代アーティスト)、Ruchika Wason Singh氏(司会/ビジュアルアーティスト)によるディスカッション
本プログラムは、建築およびアートを通じて日本とインドの知的・文化的交流を強化する上で、重要な成果を挙げたと言える。妹島和世氏および長谷川祐子氏による講演には、専門家、学生、一般参加者など幅広い層から高い関心が寄せられ、持続可能性、伝統、技術、現代デザインといったテーマについて活発な対話が促進された。少人数による専門的な議論から大学における大規模講演に至るまで、多様な形式での高い参加が得られ、異なる背景の方々における日本の建築に対する関心の広がりと交流の深まりを創出することができた。















