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第3回 Asia Leadership Fellowship(ALF)の年次総会は、2025年10月31日から11月3日まで中国・杭州、続いて11月3日から11月4日まで上海を舞台に開催されました。

流動的な米中の大国間関係やアジアの地域情勢にあって、あえて中国を開催地とした今回の年次総会は、「分断を前提にせず、同じ空間で語り合うこと自体に意味がある」というALFの姿勢を明確に示すものとなりました。政治やメディアを通じた間接的な理解ではなく、現地に身を置き、人と出会い、対話を重ねることでしか得られない一次的な知見を重視する姿勢が、全体を通じた基調となっていました。

杭州でのプログラム

杭州での総会初日は、太極拳から静かに始まりました。呼吸を整え、力を抜き、天と地をつなぐ動きを全員で行うことで、日常の緊張や肩書きをいったん脇に置き、「心と身体を開いた状態で対話に入る」ための象徴的な導入となりました。この時間は、拙速な結論や即時的な成果を求めるのではなく、長い時間軸で物事を捉えるというALFの哲学を、身体感覚として共有する場でもありました。

続いて行われたのは、ALFフェローであったSunjay Kapur氏への追悼です。今年6月、英国ウィンザー近郊で急逝されたSunjay氏は、インドを代表する自動車部品メーカーSona Comstarの会長としてEV分野のグローバル展開を牽引すると同時に、インドと中国をつなぐ架け橋としても広く尊敬を集めてきました。追悼の場では、率直で誠実なリーダーシップ、家族・仕事・情熱を等しく大切にする姿勢が静かな言葉で共有されました。この時間は、「How can we become good ancestors?(どうすれば良き祖先になれるか)」というALFの根幹テーマを、理念ではなく生き方として捉え直す機会となりました。

 

杭州の非公開プログラムは、3部構成で行われました。

第一に、Common Reading Sessionでは、稲盛和夫氏の言葉「Your Attitude Can Change Hell into Paradise」(「心の持ち方ひとつで地獄は極楽にもなる」)を手がかりに、「利他」「与える姿勢」「リーダーの態度」が組織や社会にどのような影響を及ぼすのかが議論されました。参加者の多くは、この思想を理想論として称賛するのではなく、実際の組織運営や制度設計にどう落とし込むかという現実的な視点から向き合いました。利他はスローガンではなく、長期的な信頼関係や意思決定の枠組みと一体で初めて機能するという認識が共有され、ALFらしい実践志向の議論が展開されました。

第二に、ALF Round-Robin Sessionでは、ニュースでは見えにくい各国の現状を、長期的な歴史サイクルの視点から共有しました。中国、インド、ASEAN諸国、日本、韓国、など、それぞれの国が直面する経済、技術、人口動態、社会心理の変化が語られ、特に「テクノロジーが雇用や社会構造を根本から作り替えつつある」という視点が、国を超えた共通テーマとして浮かび上がりました。今年からは、初めての試みとしてレイ・ダリオの著書『Principles for Dealing with the Changing World Order: Why Nations Succeed and Fail』(邦題『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』)に着想を得た国別発表の共通枠組みを通じて、各国のデータ比較も同時に行いました。発表では、各国の状況について多面的な共有がありました。たとえば、フィリピンについて、消費主導の経済(GDPの約76%)を支える「コールセンター等のBPO(アウトソーシング)産業」と「海外就労者からの外貨送金」という二本柱が、AIやロボットの普及によって同時に揺らぎかねない、という危機感が共有されました。シンガポールでは、外から見える成功像とは別に、国内で所得格差拡大・住宅費高騰・精神的ストレスが蓄積し、「二つのシンガポール」が並存しているという問題提起がありました。インドは、1990年代以降の市場改革を経て安定的に成長してきたという認識が共有される一方、課題も明確だと整理されました。とりわけ、労働力の約45%が農業に従事するなど製造業比率が低く、雇用吸収のエンジンが弱い点が主要な論点となりました。こうした議論を通じて、「国際メディアではあまり語られない各国の実像」が具体的に捉えられました。

第三に、ALF Circle Sessionでは、参加者一人ひとりが仕事を離れた「個人としての関心や情熱」を起点に対話を行いました。議論を通じて、「事業継承と自らのネクストステップ」「世代や地域を超えた橋渡し」「アジアの知と文化の再発見」という共通の軸が浮かび上がりました。具体的には、50代に入ってからの学び直し、伝統産業の再生、若者育成、越境協働といったテーマが、個人の経験と結びついたかたちで共有され、セッション終了後もフェロー間の意見交換が活発に行われました。事後アンケートでも本セッションの満足度が極めて高く、フェロー間での具体的なコラボレーションにも繋がる可能性を秘めた試みとなりました。

こうした杭州での対話を通じて、ALFが「対話の場」から「行動のコミュニティ」へと移行しつつあることも具体的に示されました。ミャンマーにおける再生可能エネルギー支援、インドと韓国を結ぶ学術交流、次世代育成に関わる取り組みなど、フェロー同士の信頼関係から生まれたプロジェクトが、すでに現実の社会課題に向き合い始めていることが共有されました。

上海でのプログラム

会場を上海に移して開催された後半のプログラムでは、中国を代表する有識者や投資家との対話、そして先端企業への訪問を通じて、中国を「概念」ではなく「現実」として理解する時間が設けられました。基調講演や対談では、地政学、マクロ経済、AI、投資環境が多面的に論じられ、西側メディアでは不動産不況ばかりに焦点を当てて報道されがちな中、政府が資金を意識的に不動産からテクノロジー分野に振り向けていることは知られていない点などが指摘されました。また、中国の競争力は個別企業ではなくエコシステム全体にあること、AIは短期的な収益化が難しい一方で生産性向上に大きな可能性を秘めていることなどが整理されました。

出所:Gavekal Research(Louis-Vincent Gave氏 講演資料、2025年11月)

企業訪問では、中国の先端テクノロジー企業が集積するエリアにある複数の企業を訪ね、現地での説明を通じて、設計データ、AIグラス、半導体、LiDARといった領域で、中国企業が実装と改善のスピードを武器に進化している姿を体感しました。特に研究開発と製造が近接している中国の環境が、試作から量産までのサイクルを劇的に短縮している点は、多くの参加者に強い印象を残しました。中には、米国で教育を受けたのち帰国して20代で起業し、10年間で自動運転の基幹技術で世界トップシェアを狙うまでに事業を成長させたシリアルアントレプレナーも登壇。中国の起業家の層の厚さとトップ層の圧倒的な創造力に一同驚嘆する場面もありました。

総じて今回の年次総会は、ALFが大切にしてきた親密さと長期視点を保ちながら、アジアの現実と真正面から向き合い、対話を社会的インパクトへとつなげる次の段階に入ったことを示す場となりました。次回の年次総会はインドネシアを軸に検討が進められており、ALFの学びと協働が、さらに広い地域と世代へと広がっていくことが期待されます。

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