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夏の蒸し暑さと冬の厳しい寒さという、日本特有の気候に備えた住宅をデザインすることはとても難しい。兼好法師が徒然草で言う分には「家の造りようは夏を旨とすべし」ということで、伝統的には夏にカビが生えないように風通しを良くし、障子や縁側といった工夫がなされてきた。例えば1928年に建てられた京都の聴竹居に見られる工夫の数々は、現代の省エネルギー住宅にも通じる非常に示唆的なものである。

しかし、夏の涼しさや通気性を高めた住宅は、寒い季節の快適性を代償にしてきたとも言える。国土交通省が2012年に行った推計[1] によると、日本の住宅のうち省エネルギー基準に適合する住宅は僅かに5%、そして無断熱の住宅は39%にのぼるというのだ。また、日本では多くの人が部屋ごとに空調の暖房をつけたり炬燵で暖を採ったりするが、全館暖房方式ではないために廊下や風呂は寒いままということが多い。その急激な温度差により生じるヒートショックは、実は毎年自動車事故よりも多くの高齢者が亡くなる原因となっているのだ[2]。さらに病気や事故による死亡率は、暖かい時期に比べて冬の時期の方が高まるとも言われている[3]。

ヒートショックを防ぐための有効な手段として、住宅を高気密・高断熱化することが推奨されている。ただしそれだけでは通風による夏の快適性がデザインされていない。そこで、冬の危険性を低減しつつ、夏場の快適性にも配慮した事例として「ライフサイクルカーボンマイナス(LCCM)住宅デモンストレーション棟」に注目した。これは政府と研究者、建築家が連携して開発したもので、最大の目的は建設から廃棄までのライフサイクルでCO2排出量を創出量よりも少なくするということである。もちろん高気密・高断熱化された住宅なのだが、興味深いのは省エネルギーの手法として、人が環境に応じて衣服を脱ぎ着するように、住居が環境に対応するという「衣替え」をコンセプトとしている点だ。南に面する縁側のようなバッファーゾーンには、落葉樹や木製水平ルーバー、ハニカムスクリーンなど複層的なフィルターが用意されている。それらを季節に応じて住人自らが調整することで、夏には日射を遮りながら風を取り入れ、冬には風を遮りながら日射を取り入れることができる。そして全館暖房方式のようにすべて均一に温めるのではなく、生活シーンに応じて温度差を滑らかに変化させることで、ヒートショックの危険性を下げつつ省エネルギーな生活を可能にしているのである。

一方、民間企業で日本独自のパッシブハウスを開発しているのがOMソーラーである。OMソーラーは太陽熱集熱器を用いたパッシブハウスの特許を持っており、全国各地の地場工務店を通して技術を全国に展開している。パッシブハウスというとドイツやスカンディナビア半島を思い浮かべるが、実は太陽熱集熱器はそれらの国々よりも気候が湿潤で豊富な太陽光が降り注ぐ日本の方が適しているのである。OMソーラー社長の飯田祥久氏は「健康面でのメリットを伝えることは、消費者に興味を持ってもらうための確実な方法だ」と言う。自然エネルギーを活用した夏冬の快適性の訴求力は大きい。

1980年代から日本でも住宅の量ではなく質を重視する傾向が見られるようになっていたが、健康という観点がまだまだ一般化しているとは言えない。しかし、これらの先進的な事例を足がかりとして、日本独自の夏冬両用の健康住宅が普及していくことを期待する。

<Interviewees>
村上周三: (財)建築環境・省エネルギー機構理事長、東大名誉教授
OMソーラー株式会社: 自然の力を利用した家づくりを各地の工務店を通して全国に展開している
清家剛: 東京大学准教授、LCCM住宅研究・開発委員
小泉雅生: 首都大学東京教授、LCCM住宅研究・開発委員

<注>
1.国土交通省「住宅・建築物の省エネルギー施策について」2014.2.24
【住宅ストック約5000万戸の断熱性能】統計データ、事業者アンケート等により推計(2012年)
→ 日本の住宅は、1980年に断熱性能・省エネルギー基準がはじめて設けられ、その後何度か段階的に引き上げてきた。1980年以前に建てられた住宅のほとんどは断熱を行っていないと考えられる。
2.独立行政法人東京都健康長寿医療センター「冬場の住居内の温度管理と健康について」2013.12.2
→ 2011年の1年間でヒートショックに関連した入浴中急死で亡くなった人は約17000人と推定される。これは交通事故による死亡者数は4611人をはるかに上回る。
3.断熱住宅.com 近畿大学岩前篤教授コラム「第1回 冬の寒さと健康」

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